税理士の三箇条その3・依頼者に「優しい」税理士とは
「取り返せ、相続税」の観点からの税理士の選択は、上記2点が大きな判断基準となります。しかし一連の相続問題の処理に当たっては、税額が安くなればいいというものではありません。何度となく述べているとおり、目指すべき最大の課題は「相続人の円満」なのです。さらに納税資金の捻出も問題となりかねません。
したがってこれらを含め税理士は、納税者の立場に立った親切な助言を行うべきと思います。したがって税理士はお客様を大切にする、すなわち「納税者に優しい」税理士であるべきと思います。
「士業」の勘違い
筆者は弁護士という人種があまり好きではありません。お客よりも自分が偉いと思っているからです。ですからお客を事務所に呼びつけ等、彼らは自らの業務がサービス業であるということを理解していません(むろん例外はあるでしょうけれど)。司法試験が難しいのは事実です。むろん筆者などはとても受かりません。しかしそれとこれは別だと思います。
税理士試験は司法試験と大違いですが、一応難しいとされています。ですからその合格者である税理士も「士業」・「先生」の端くれとなります。その意味からか税理士は、(ミニ弁護士的存在として)こうした弁護士の「尊大」ぶりにあこがれているように思います。
筆者は幸い、銀行という民間企業を経て税理士業を始めています。金融機関は基本的に「お客様は神様」の世界です(少なくともそのはずです)。したがって筆者は「神様」に頭を下げるのは当然、という真っ当な教育を受けかつそれを実践してきました。したがって今日でもお客様に頭を下げることは、何の苦にもなりません。
いうまでもなく「士業」はサービス業です。したがって当然に「お客様は神様」です。税理士等の「士業」に従事する者は、くれぐれもこの点を勘違いしてはならないように思うしだいです。
お客の立場で
一家の大黒柱に相続が発生すると、未亡人といった相続人は大変な思いをします。ただでさえ悲しい上に、諸事万般をこなしてきた中心人物がいなくなってしまったのです。むろん相続手続などやったことはありません。おろおろするばかりにもなりかねません。
ここで頼りになる子供がいれば大助かりですが、そうもいかないケースも多いようです。転勤等で実家からは離れている、比較的近くにいても仕事が忙しくてほとんど手が回らない、理科系一辺倒でこの方面には全く戦力にならない、娘達は口ばかりで何もやってくれそうもない等々。
このような場合には税理士を頼りにしたいところです。税理士としても、遺産等に関してきっちり交通整理をしていかないと仕事がはかどりません。となれば税理士は、相続人の気持ちを理解した上で、全体の状況を把握する必要があります。自分の都合だけで、それ「残高証明書をとれ」、やれ「遺産分割協議書を作れ」などと言っても、納税者は頭を抱えるばかりとなります。
このような場合は、何日も納税者宅に通う等により、あせらず順繰りに説明し、理解を得ながら行動する必要がありましょう。場合によっては一緒に銀行等に出向く必要もあるかもしれません。あくまで納税者本位の行動が必要となります。(とはいえあまり税理士に頼りきりになられても困ります。そこで筆者はこのような場合に頼るべき「相続FP養成スクール」を開いています。)
一方、相続人に行動力も判断力もある場合はどうでしょうか。
むろんこのようなときには、むやみに口は出しません。ひたすら申告に必要な書類整備にいそしむわけです。しかし何度かお客を訪問していると、中には微妙な問題があることに気づく場合があります。その多くは遺産分割を中心とする話です。親の介護の問題がこれにからんでくる場合もあります。
このような場合の多くで、納税者の誰かが「アドバイスしてほしい」という顔つきがみえてきます。そこで助言することが妥当と思われたら、今度はそれを誰にどのように話すかを考えます。事前の観測気球や根回しも必要となります。その上でタイミングを図ってソフトに切り出すのです。
むろんはっきり意見を求められれば、(これを発言しても問題は生じないと判断した上で)明快に述べます。このような発言をする際の鉄則は、誰の味方にもならないことです。強いていうなら未亡人といった高齢者の側に立つのがいいのかもしれません。 要するに、担当税理士はハートを持ってお客に接するべきものと思います。こうして考えると、(相続税申告にとどまらず)相続人の支援をすることができる税理士の仕事は、崇高なものに思えてきます。こうした仕事ができる立場にいる自身を幸せにも誇りにも思います。
なお具体策等に関しては、既に第3章等で述べています。いずれにしても、税理士の選択に当たっては、こうした「納税者に優しい」かどうかも、大きなポイントになるように考えるしだいです。
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