不動産評価をとりまくお寒い現状

 実は、今検討した「A地40坪・B地80坪」の例題に関して正解できる人は、世の中にほとんどいないのが実情です。筆者は銀行出身のせいか、金融機関から勉強会の講師をよく仰せつかります。そしてその際には必ずこの例題を持ち出します。しかしこれができる人はほとんどいません。担保評価を始め、金融マンにとって不動産の実力養成は必須であるにもかかわらずです。

 金融マンだけではありません。不動産知識等が必要なはずのFP(ファイナンシャルプランナー)や弁護士・税理士といった実務家。さらにはマスコミや学者・評論家等々 (例外もいましょうが全くの少数派に過ぎません。マスコミ等では皆無です)。要するに世の中の全般において、実践的な不動産の知識が驚くようにお寒い状態にあるのです。

 それではなぜ不動産知識が、一般社会にこんなに欠如しているのでしょうか。
まず世の中は、「知識等の習得は机上の勉強で」という考えが根強いようです。しかし不動産知識・実力の養成には、「見て判断する」という実践行動が中心となります。机上の勉強だけではどうにもなりません。

 したがって不動産の実力とは、いわば「実技」の分野に入ると思われます。たとえていえば、今ではかなり難しい宅建の試験、さらには鑑定士の試験の合格をもって「不動産を修得した」と考えるのは、「ペーパー試験だけで音楽大学を入学・卒業した音痴人間のようなもの」、と申し上げたいのです。

 つけ加えれば、不動産の入門書にいい本がほとんど存在しなかったというのも、その理由のひとつに上げられましょう。鑑定士等の手によるやたら理屈の多い本や、その著者自身が不動産の実態を理解していないと思われるような本を読んでも、迷路に入るだけで実力養成にはつながりません。

 実は最大の原因は、世の中が不動産を軽視(さらには蔑視)する傾向がある点ではないでしょうか。それは「不動産業者」という言葉の響きが象徴しています。しかし不動産業務は幅は広いし奥も深いものです。この枢要な不動産業務が世に軽んじられていることは、地主層等にとって極めて不幸というより他ありません。

 さて税理士は、金融マンや弁護士といった実務家と同様に不動産を知らないと書きました。事実ほとんどの税理士は全く不動産を知りません。

 その理由の大なるものとして、税理士試験の試験科目に不動産が入っていないという点が挙げられましょう。とはいえ「専門性は税に関して要求されるのだから、不動産は不要」という考え方もありましょう。しかし税理士は、必ずしも会計の専門家(これは公認会計士)というわけではないにもかかわらず、会計科目の合格を義務付けられています。法人等の経理は簿記会計の上に成立しており、これが分からなければ法人税等が理解できないからです。

 それとの比較で思います。「相続税をはじめ、適切な不動産評価は各税法で必須とされている。にもかかわらずなぜ税理士試験はこれを無視しているのだろうか」と。

 土地評価が大きな比重を占める相続税業務を行う以上は、当然ながら税理士は不動産知識の習得は必須となります。大半の税理士は「(あのお粗末な)評価通達を単に適用するだけでいい」と考えているのでしょうが、それではとても専門職業家とはいえません。 こうした事情は税務職員も同じです。

 新たに税務職員なった者は、税務署等へ配属される前に、付属の研修機関でかなりの知識を叩き込まれます。国税庁はこの税務職員の教育システムにも、税理士試と似たカリキュラムを採用しているようです。

 したがってそこでは不動産の勉強が欠落しています。税務職員も税理士同様に不動産評価の素人に過ぎません。

 少し具体的にいうと、資産税部門に配属された税務職員は、国税庁が作成した評価通達の内容はよく知っていますが、役所の法令に関係ないものには一切関心を示しません。ですから評価通達関係以外はほとんど何も知りません。評価通達にしても、背景の知識が欠落しているため理解の内容は薄っぺらなものに止まります。

 何よりこうした評価規定を作っている人が不動産を分かっていません。作成者は「霞ヶ関」にいるエリート意識にあふれた専門職の人達です。したがってペーパー的な勉強はかなりしているのでしょうが、「見て判断する」を実践していません。これでは不動産が分かるはずがありません。ですから大元の評価規定はもちろん、近年の規定の改正内容にも、筋のよくないものがかなり含まれています。

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