不動産による節税(1)アパート建築とその落とし穴

有効利用の落とし穴(1)

 最初に皆さんに質問します。「地主さんが、時価6,000万円の更地の上に、相続税対策をかねて4,000万円でアパートを建てました。そして1年後に換金する必要が生じました。ではこの土地建物はいくらで売れるでしょうか」。

 これは到底1億円にはなり得ません。一般的な正解をいえば「6,000万円ちょっと」といったところとでしょう。理由を簡単に説明しましょう。

 まず「時価6,000万円の更地」は、更地を前提として6,000万円の値が付いのです。この値を付けた人は、「アパートを撤去して更地にしてくれれば6,000万円で買う」と言うでしょう。

 一方、これを収益物件としてみるいわば投資家は、このアパートの年間収入を売買価格で除した「利回り」を計算します。要するに収益性です。仮にこのアパートの年間収入が500万円であるとしましょう。するとこのアパートの売値が1億円であれば利回りは5%(500万円÷1億円)です。このように「相続税対策にもなるし、土地を遊ばしておくよりは...」といった形で建てたアパートの家賃はこの程度です。

 ところが収益物件として現在取引されている利回りは、図表2-2の住宅情報誌にみられるとおり8~10%は水準にあります。これでは買い手は見向くもしてくれません。そこで8%の利回りを確保しようとすれば、売値を6,250万円(500万円÷8%=6,250万円)にする必要があるわけです。

図表2-2: 住宅情報誌の収益物件広告の例

右端の特記事項欄には8~10%台、中にはそれ以上の利回りが表示されています。ただしこれらは満室が前提であり、また建物の状況もしっかり考える必要があります。利回りだけに目を奪われるのは禁物といえましょう。とはいえ、高利回りの魅力が大きいのは歴然たる事実です。

駅名 バス
所在地 価格
(万円)
土地面積ほか私道 建物延面積 構造道路付 築年数総戸数 法令上の制限 用途種別 特記事項
小田急線 向ヶ丘遊園 -
12
川崎市多摩区枡形(丁目) 5280 118,65 無 110,28 木造2階建 南東2.9m '90.10.8 60/200 宅/1中 オーナーチェンジアパート 価(税込)
ワンルーム×8
セットバック済
賃貸中(収)
39万6000円/月
年利回り9%
小田急線 生田 -
15
川崎市多摩区南生田 4880 111,51 無 174,14 木造2階建 東14m '92.1.7 60/200 宅/1中 オーナーチェンジアパート 倉庫×1
ワンルーム×6
賃貸中(収)
43万4000円/月
年利回り10.67%
小田急線 読売ランド前 -
10
川崎市多摩区寺尾台 9300 625,61 無 238,14 鉄骨4階建 北西7m '87.4.14 40/80 宅/1低 オーナーチェンジマンション 価(税込)
1k×14
(車)3台分
賃貸中(収)
77万2000円/月
年利回り9.96%
タイル貼
全室南向
稲田堤駅18分
京王稲田堤駅18分
小田急線 新百合ヶ丘 -
17
川崎市多摩区王禅寺 5280 355,00 無 162,00 鉄骨2階建 北4・東4m '86.4.11 50/80 山/1低 オーナーチェンジマンション・一戸建 ワンルーム×10
(車)4台分
セットバック済
賃貸中(収)
9万4166円/月
年利回り13.5%
他戸建83.63m2
3LDK付用途地域
一部1種住居60/200
小田急線 玉川学園前 -
10
町田市玉川学園 4380 215,45 共有 168,10 木造2階建 南6・東6m '87.3.8 40/80 宅/1低 オーナーチェンジアパート ワンルーム×8
(車)2台分
私道持分
142.98m2×1/6
賃貸中(収)
36万1000円/月
年利回り9.89%
小田急線 町田 -
15
町田市高ヶ坂 6900 329,81 20,00 239,42 RC2階建 北4m '87.8.10 40/80 宅/1低 オーナーチェンジマンション 2K×10
賃貸中(収)
60万5500円/月
年利回り10.53%
全10戸中9室洋間
小田急線 相模大野 -
10
相模原市旭町 5260 181,02 無 328,48 鉄骨3階建 北12m '80.1.6 60/200 宅/準住 オーナーチェンジ店舗 価(税込)
賃貸中(収)
60万5000円/月
年利回り13.8%
ワンフロアー×6
小田急線 小田急相模原 -
15
座間市相模が丘 2480 114,71 無 119,00 木造2階建 北4・西7m '85.11.6 60/200 宅/準工 オーナーチェンジアパート 1DK×6
賃貸中(収)
20万9973円/月
年利回り10.15%

 不動産を高値で売るには、それが有する効用が最高度に発揮させた状況にしなければなりません。逆にアパートに不向きな場所に建てれば、低利回りという形で売値に跳ね返ってきます。

 一方更地は、買い手が購入後どのような用途にも使用することができます。だから更地が最も高値が付くし、また売りやすいのです。

 つまりここで申し上げたいのは、こうした状況でアパートを建てたら、その土地建物は換金できない(換金はできるが大損をする)ということです。

 ただし建築後30年以上経過し、その建築費のほとんどを家賃収入で回収した後での売却であれば何の問題もありません。結局、建築後5年やそこらで売るからいけないのです。先のアパート建築の敗因はこの点にあるといえましょう。

有効利用の落とし穴(2)

 誤解しないで下さい。「アパートを建てるな」と言っているのではありません。この地主さんは「5%」の利回りを納得しています。つまり「この程度の家賃が入れば、借入金を返済してもまだ相応に残る。何より節税効果が大きい。だからこれで十分」と考えています。そしてその考えは正しいのです。これに異を唱える気は全くありません。

 ただし、アパート等の流通市場では「5%」は通用しません。売れば大損します。つまり売らなければいいのです。

 これを先の例でいえば、アパート建てると約4,000万円の「含み損」が発生したと考えれば分かり易いでしょう。含み損は、これを売却すると表面化します。一方売却しないまま保持し続ければ、時の経過とともに含み損は減少を続け、最後にはなくなってしまうというわけです。

 結局アパート建築の最大のデメリットは、(売ると表面化する)巨額な含み損の発生です。したがって、納税資金等で金融資産が大きく不足するといった場合に、換金にピッタリの更地上にわざわざアパートを建てるなど、自殺行為というべきでしょう。この点が土地有効利用の最大の落とし穴なのです。

有効利用の落とし穴(3)

 含み損の発生と同様、油断のならないのはアパートの事業採算です。いうまでもなくアパート建築は、数千万円を投入するれっきとした大事業です。

 そもそも今日、大都市を含め全国的に賃貸住宅はかなりの供給過剰にあります。賃貸事業で何より恐ろしいのは空室です。そこがアパート適地か否かは十分な検討が必要となります。

 ところが地主層にはこうした判断力はありません。ですから外部の人の意見によって判断しようとします。しかしこの外部の人というのは、ビジネスの都合上「地主にアパートを建ててほしい」と願っている人が大半です。まずは建築事業者やローンを売り込みたい金融機関、さらには金融機関等と提携している税理士やアパート管理業者です。ですから彼らは「建てるべき」と言うに決まっていまするのです。

 しかし、近年は供給過剰が深刻の度を増しています。建築事業者が需給関係を無視するような形で、強力な営業を展開しているからでしょう。とはいえ確かに建てて5年程度の期間はであれば、アパートはまだ新しいため入居者はまずまず集まります。

 しかし5~10年も経ってくるとかなり古くさくなり、少なからぬ空室が生じてきます。なにせ周辺には、工夫を凝らした新しいアパートが続々と建てられているのです。こうなると家主のアパート経営の熱意は冷めていきます。いきおい修繕も疎かとなり、みてくれはさらに悪化します。そしてそれがまた空室化を進ませるという悪循環に陥るのです。

 結局アパート事業は破綻し、「アパートを取り壊しその土地を売却した上で、ローンの残金を返済する」といったことになります。おまけに15年程度の経過では、まだかなりの借入金残っています。計画時の資金繰りをよく見せるため、借入期間が30・35年と長く設定されているからです。したがって多くの場合、土地の売却代金が借金の返済で消えてしまいます。

 そこで新規にアパートを建てるに際しては、建築資金の全額借入れを前提に、借入期間を20年(本音では15年。)にすることを提案したいと思います。そしてこれで資金繰りが十分回ることを、事業実施の条件とするのです。20年間で資金繰りが十分回れば、相応の利回りが実現できている証拠となります。また予想外のリスクに遭遇してもかなり抵抗力があります。

 そしてリスクや注意点をに十分検討した上で、「いける」と思われたのであれば、積極果敢にいくべきと考えます。要するに相手を見ないままの「任せっきり」とか、中途半端の有効利用がよくないのです。

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