二重課税問題(その2) 最高裁判決の事例は本当に二重課税か?

(2010年07月22日)

「死亡保険金の年金受取分への所得税課税は、二重課税に当たり違法」とする最高裁判決についての2回目です。
今回は、「そもそも最高裁判決のケースは、本来の二重課税に該当しないのではないか」をテーマとします(前回の予告とはかなり内容が違います。スミマセン)。

最初に結論を述べます。二重課税とは「相続税を払った財産に対して、所得税も課税された」という話だと思います。しかし実は、年金受取に所得税を課税された人のほとんどは相続税を払っていません。双方の税を払っていない以上、実質的には二重課税にはならないはずです。

 そもそも相続税には多額の基礎控除があり、相続税が課税されている人は4%程度にすぎません。さらには死亡保険金には非課税枠があります。おまけに年金受給権を相続するであろう配偶者には、別枠で税金がかからないようする大特例があります。

 結局のところ、判決のいう年金受給権に関して相続税を払っている人は、100人に1人(1%)程度しかいないと推測されます。ですからこうした年金を受取っている人のほとんどは、相続税をかけられていません。だから本来の二重課税には該当していないのです。

ところが法律(それに基づく今回の判決)は、そのようにはなっていません。「結果として税金がかからなかったとしても、形の上で相続税の課税対象となった財産に関しては、(二重課税防止の観点から)所得税をかけてはならない」と定められています。

確かに法律でそう定めていますから、形式的にはそれが正しいわけです。しかし私はどう考えても、二重課税とは二重に税金を納付させられた場合をいう、としか思えません。ですから「二重課税といったクレームを付けるのは、相続税を払ってからにしていただきたい」と言いたいのです。
 
その一方、個人年金に加入後に本人が年金を受給した場合には所得税が課されます。しかし亡夫が掛けたものを相続人が受給すればこれが課されないことになります。そうした場合のほとんどは、相続税の納付がないのはもちろん相続税の申告すらしていないにもかかわらずです。これは不公平だと思います。

結局こうした矛盾の原因は、形式的な二重課税までをも禁止した、いわば「エエカッコーシイ」というべき所得税法の規定にあるように思います。二重課税による救いの対象者は、二重に税金を払った人だけにしておくべきだったでしょう。
むろん国税当局は、その規定の不備に気付いていたはずです。したがって法律を修正しておけばよかったのです。しかしそれが面倒だったのでしょう。そこで前回批判した「通達行政」のごまかしをやったのだろうと思います。

ところでマスコミ等は、二重課税を受けた人は既に十万人以上に上るとして、これらの人への還付策を論じています。参院投票日直前だったせいもあってか、野田財務相も特別法を制定してまでして還付したいなどといった、これまたエエカッコーシイの談話を出しています。

 しかし私は、相続税を負担していない「99%」の人には、無理をしてまで所得税を還付する必要はないと思います。ですから現行の法規定のとおり、「後発的事由に基づく更正の請求として、これを知った日の翌日から2ヶ月以内に実施」した人のみに還付すればいいように思います。

その一方、残る「1%」の人には実質的にも二重課税が生じています。しかもそれは国税当局の「失政」が原因です。
そうであれば、過去5年程度の相続税の申告書を当局がすべて調べ、二重課税相当額を職権で還付するといった対応をすべきと思います。それはまた、「安易な課税を行うと後々面倒なことになる」、という自身への戒めにもなるからです。 
つづく


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