森ビル社長の、容積率緩和による亡国的な東京再生計画

(2011年06月19日)

 森ビルの社長が、昨日の読売新聞の「けいざい論考」欄に、「防災強化で東京再生」なる論文を載せた。防災力と都市の魅力アップにより、経済力や国際競争力等を高めようというものである。
 一見もっともらしいが、そこには森ビルのしたたかな計算がある。ましてこれは「一将(東京)功成りて万骨枯る」という話にもなりかねない。

 森氏は言う。「首都再生は、規制緩和・融資制度・税制特例がそろえば民間の力で十分可能」。
「都心部の200haを容積率を1,200%とする再開発を行い、その3分の1を住宅とした場合には、工事費10兆円による経済波及効果は25兆円。完成後も年9兆円の生産誘発効果が見込まれる」と言うのである。

冗談はやめていただきたい。要するにこれは、「都心部の土地所有者に、合計20兆円規模の補助金をよこしなさい。そうしたら東京を再生してあげるよ」と言っているようなものである。

この「再生計画」のポイントは容積率の緩和にある。容積率とは、敷地面積に対して何倍までの延べ面積の建築が許容されるかの制限値。たとえば容積率500%の100坪の土地には、500坪を超える建物の建築は許されないわけである。

 容積率制限の立法趣旨は、主に街の過密の防止(災害対策)である。とはいえ都心部等の土地所有者は、なるべく大きなビルを建てたい。
その結果こうした地域では、容積率の目一杯の大きさのビルを建てている。都心部等の土地は長年、こうした容積率の制限値を前提に構成されてきている。

では先の土地の容積率制限が、仮に500%から800%に緩和されたとしよう。するとこの土地には6割増の800坪を建てることができる。つまり土地面積が6割増えたに等しい。したがって現実にこの土地の単価は6割アップすることになる。不動産の時価はこのように形成されている。
さて森ビル社長の森氏は都心部200haの容積率を1,200%にアップせよという。これは腰の抜けそうなとんでもない数値である。既存の容積率は銀座通りでやっと800%、新宿や渋谷のコア部分で900%、超高層ビルの林立する西新宿でさえ1,000%に過ぎない。
 おそらく対象となる200haの平均の実効容積率は600%がやっとであろう。つまり1,200%はその倍。つまり「土地単価を倍にしろ」と言っているのに等しい。

 ではこの地域の㎡単価を1,500万円とした場合には、これに総面積の200haを乗じると30兆円となる。そして道路等の公共用地部分の約3分の1を除外すると20兆円。これが森氏の言う容積率緩和により地権者の受けるメリットの額である。これが先に述べた「20兆円の補助金」の意味である。

「規制緩和」の美名に名を借りた実質的な超巨額な補助金。これが実現すれば、地権者はビルを2倍規模への立て替えを行うであろう。それが森氏の言う建築費10兆円である。

しかし日本経済の伸びは期待できない今日にあって、そのような超巨大なビル群ができあがったらどうなるのか。
大変な競争力を取得するその大ビル群は、首都圏中の広汎なビル需要を独り占めにしてしまう。入居者を奪われた一般の貸しビルは、一層の賃料低下や空室が発生する。まさに「一将功成りて万骨枯る」なのである。

計画では大ビル群の3分の1を住宅に充てるという。すると郊外の住宅地の需要減により、郊外の地価はその分さらに下落していく。
今日は、経済は停滞し人口が減少する時代である。パイの増大が望めない以上、商業地も住宅地も限られたパイ(需要)を奪い合いしかないのである。

その意味から、首都圏を含め地価は超長期的に下落を続けている。土地神話時代から、土地の供給過剰・需要過小という大構造変化が発生しているのだ。
こうした中、限られた地権者のみを対象とする大量の土地の無償供給。地価の下落には一層の拍車がかかろう。

実はこの話には前例がある。6~7年(?)前、丸の内地区の容積率を1,000%から1,500%に引き上げたのだ。現在この地域で進行している超高層ビル群への立て替えは、この容積率緩和によるものなのである。
三菱地所を初めとするこの地域の地権者には、これにより膨大な利益が転がり込んだはずなのだ。

今回の200haはそれよりずっと範囲が広い。おそらくそこには虎ノ門や新橋といった、森ビルが膨大な土地を所有する地域が含まれていよう。となれば「防災強化で東京再生」なるこの論文は、あまりに「虫のいい話」としか思われないのである。

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