東電総合グラウンド 杉並区への想定売却価格はせいぜい70億円

(2011年06月16日)

 東電が賠償金捻出のために、4万4千㎡の総合グランドを地元の杉並区に売却するという話だね。マスコミの多くは、「公示価格からすると190億円か?」などと無責任なことを言ってるよ。不動産を全く知らないんだね。
この際同じ前提で結論を言うと、「公示価格からすると、せいぜい70億円ぐらい」じゃないかと思うよ。猛烈に大雑把だけど。

簡単に説明するよ。公示価格のいう坪当たり約140万円(190億円÷4万4千㎡×3.3)は、公道に接面した面積40坪の土地を前提としているんだ。
ここは普通の住宅地域だから、これを売るには、道路を造成した上で敷地を40坪程度に細分化しなければならない。容積率制限の関係等から、マンション建築は全く採算が取れないんだ。

早い話、こんな広い住宅地を買うのは大手の宅地開発会社しかいない。そうした会社が買う値段が、この土地の時価になるわけだよ。となるとその会社の立場で買値を考えることが必要になるね。

この土地を40坪程度に細分化するには、敷地内に道路を造らなければならない。またこうした広い土地の開発には、かなり広い公園や調整池地等を確保する必要がある。これらは役所の開発指導要綱により、厳しい基準が設けられているんだ。
だから結論的には、道路や公園等の公共用地に4割近い土地を持って行かれる。つまり開発会社が売ることのできる土地は、6割強程度にしかならないわけだよ。

さらに開発会社には、膨大な造成費用や販管費・金利を要する。むろん適正利益を確保したり事業リスクも見積もる必要がある。となると最終的なこの土地の単価は、40坪前提の公示価格の4割を割り込むことになるだろうね。
ちなみに相続税評価には、広大地のこうした特徴を捉えた立派な評価規定があるんだ。それによると35%評価になってしまうね。

実はこの土地はさらに具合が悪いんだ。公的に指定された容積率が60%と極めて低いからだよ。つまり土地面積が60坪あって、やっと延べ面積36坪(60坪×60%)の建物が建つ計算になる。50坪なら建物は延べ30坪にしかならないね。

仮に公示価格の単価を前提にすると、60坪の面積なら土地代だけで8,400万円になってしまう。特に高級住宅地域でもないこの土地に、建物代を含めて優に1億円を超える金額を出す人はほとんどいないよね。
だからこれらの減額要因をも考え併せて、冒頭で言った「せいぜい70億円ぐらい」ということになったわけ。

少し補足するよ。まずネット等では「公示価格は実勢価格に比べて低め」なんて書かれているけど、昔はとにかく、今はあまりそういうことはないね。逆にこの土地の容積率を考えれば高すぎるぐらいだよ(最もこの責任は、公示価格じゃなくて相続税路線価にあるんだけど)。

それからマスコミの論調は、まだ土地神話の亡霊を引きずっているみたいだね。でもミニバブルといった一時の例外を除いて、地価は超長期的に下落基調なんだよ。
そもそも昔だったら、この土地なら杉並区なんかに話が行く前に、大手不動産会社がとっくに奪い合いをやってるはずだよ。今は白けきっているんだろうね。

以上で大体ご理解いただいたと思うけど、それにしてもマスコミを初め世の中は不動産がダメだね。ここに記した内容は、不動産のイロハなんだけどね。
そしてそのレベルであるにもかかわらず、何かあると不動産業界を悪者にするんだよ。まあこの業界に身を置く者としての、僻みもかなり入っているのかも知れないけどね。

いずれにしても、この土地の購入を検討しているという杉並区は、こうした土地の実態を十分に知った上での価格折衝をやってほしいね。
ちなみに私は、毎年大枚の住民税や固定資産税を払っている杉並区民だよ。区がこの土地を100億円以上の値で買おうものなら、高額納税者(?)として、必ず超厳しい監査請求をやるつもりだからね。しっかり頼むよ。

相続税対策個別ご相談予約
『相続コンサル力の磨き方~不動産を「見る目」を養う』DVD お申込
森田税理士「相続対策の秘訣」DVDお申込
広大地評価の税務はお任せください

森田義男の書籍紹介

相続税を減らす不動産相続の極意 不動産の相続対策

相続税を減らす不動産相続の極意 不動産の相続対策

相続に関する多くの誤解が解け、「円満かつ資産を守る相続税対策」の本質が見えてきます。

取り返せ!相続税

相続力

平成23年度税制改正大綱に対応!経験豊富な相続税専門の税理士が、相続にまつわる家族の円満から、不動産評価の実態、税務調査まで、本音で語る相続力アップの本。本当は、相続関係のプロには読ませたくない、上級テクニックを披露。

取り返せ!相続税

取り返せ!相続税

相続時の注意点から、知っておきたい節税手法、土地の時価評価のしくみ、そして税理士の選定方法まで徹底解説。

広大地の税務評価

広大地の税務評価

広大地評価通達・企画官情報の問題点とその実務対策

日税不動産鑑定士会(編)

裁判の新刊

裁判所の大堕落

冤罪を続発させ役人のいいなりになる腐敗組織。
役所の腐敗や次々に起こる冤罪は、裁判所の劣化・堕落が原因だ!

はじめての不動産実務入門

はじめての不動産実務入門

不動産の見方、評価の仕方が面白く身につく!実例写真、オリジナルなグラフや図表、わかりやすい解説で理解度100%。

公示価格の破綻

公示価格の破綻

実勢価格との乖離、「選定替え」という不自然な操作など、迷走を続けてきた「土地取引価格の指標」はついに破綻。

新・間違いだらけの土地評価

新・間違いだらけの土地評価

先入観念や誤解に支配されている不動産に関する一般の認識を是正。土地の評価方法、土地の時価等を解説。

新・嘆きの固定資産税物語

新・嘆きの固定資産税物語

反響をよんだ前著から4年。この間の動きを加え、路線価の評価制度や税制について、新たに分析、批判を試みる。

新・怒りの路線価物語

新・怒りの路線価物語

固定資産税制度を痛烈に批判した「嘆きの固定資産税物語」に3年間の事態の進展を追加した最新版。

まちがいだらけの土地評価

まちがいだらけの土地評価

自然体で地に足の着いた発想と考え方で、土地の評価方法、土地の時価等を解説。不動産の姿を冷静に見つめ直す。



メールマガジン登録解除変更
モリタックスのつぶやき別館