二重課税問題(その3) 最高裁判決の事例は本当に二重課税か?
「死亡保険金の年金受取分への所得税課税は、二重課税に当たり違法」とする最高裁判決についての3回目です。
今回のテーマは、この判決からすれば「相続した土地への譲渡所得課税も二重課税になってしまうのではないか」です。
今回の判決示をひと言でいうと、「相続税の課税価格に算入された資産はすべて相続税が課税済みなのであるから、これに所得税を課すのは二重課税となり許されない」です。大元の法律がそのように規定しているため、この結論にならざるをえないわけです。
しかしそうであるならば、相続したものが不動産であっても同じ理屈となりましょう。つまり相続不動産はすべてその評価額等が課税済みとされるわけです。
したがってこれを売却してもその大半は所得税が課されないこととなります。相続後の値上がり分には課税できるとしても、ここ20年間の地価はほぼ下がりっぱなしです。ですから昭和の終わり頃以降に相続した土地であれば、まず所得税はかからないことになるわけです。
しかし税金はかからなければいいというものではありません。現下の国家財政はほぼ破綻状況にあります。その上でまた土地の売却代金の大半に課税できないこととなったら、税収にいっそうの大穴が空いてしまいます。
やはり相続財産とはいえ譲渡代金を取得するのであれば、相応の税金を払っていただきたく思います。譲渡者には担税力(税を負担する力)は十分ありましょうし、税率(住民税を含め原則20%)だって高くはありません。
いやそもそも、こうした譲渡資産や判決がいう年金払い保険金は、そう神経質になるような二重課税ではありません。
つまりこれらの資産の所得税課税の対象は、資産の値上がり益や運用益です。その一方、相続税は富の再分配(さらには相続資産を取得することのできない人との調整)を主な目的としています。ですからこれらは厳密な意味で二重課税といえるかどうか、疑問にさえ思えます。
したがって、少なくとも譲渡所得の起因となる資産(不動産、株式、ゴルフの会員権等)に関しては、原則として二重課税にさして配慮する必要はないように思います。
なお相続税の納期限から3年以内に相続財産を売却した場合の譲渡税の課税には、一定の金額を取得費に算入することができるという、取得費加算の特例があります。しかしこれは所詮3年間のみの「特例」に過ぎません。これをもって「二重課税問題は解決済み」というのは過大評価といわざるをえません。
その一方、判決の対象となった保険がらみの相続資産等に関しては、なるべく二重課税の排除策を設けたいところです。
この両資産の区分の理由は、土地や株式等が相続財産や譲渡所得の中心に位置付けられる資産性の高いものである一方、保険金等は生活密着型資産ともいうべき存在(金額もそう大きくはならない)だからです。
しかしその場合の二重課税排除策は、あくまで相続税額を負担した人だけを対象としなければなりません。
また「一時金としての取得であれば非課税で、年金受取であれば課税」という、一般の人の素朴な疑問や不公平感も解消する必要があります。そこで以下を提案してみます。
まず相続税の課税価格には、相続人の払込保険料の合計額のみを算入することとします。そして一時払いにせよ年金払いにせよ、所得税法上で発生する一時所得や雑所得はしっかり課税するわけです(死亡退職金も同様の取扱いに)。
これであれば被相続人の払い込み保険料は相続税、運用益部分は所得税と区分されるため、二重課税は発生しません。また一時金受取と年金受取との課税課関係の違いも生じないこととなります。
ただしこうした変更は課税強化となるかもしれません。その場合には、非課税枠や税率その他でしっかり調整すべきと思います。
いずれにしても、以上述べたものは全くの私見(私の提案)です。
そしてここでの結論として、「エエカッコーシイ」の所得税法の規定を現実的なものに改正した上で、急ぎ公平かつ妥当な二重課税対策を行っていただくことを望むものです。
おわり