「この申告漏れは、重加算税の対象としたい」。税務署員のこの発言が騒動の発端です。
私の小さな顧問先(不動産業)が税務調査を受けました(私にもほんの少し法人の顧問先があります)。依頼により領収証のファイルを署員に渡しました。それらの入念にチェックの結果、売上に計上されていない約100万円の領収書が発見されたのです。
恥ずかしながら、調べてみると指摘のとおり明らかに会社側のミスでした。この申告漏れにより当然に、法人税等の本税の追加払いとともに、罰金としての過少申告加算税(税率は10%)や延滞税が発生することとなります。そしてその場で、税務署員から先の「重加算税の対象とする」の発言があったのです。
とはいえ重加算税(税率は35%)は、「仮装または隠蔽」(例えば二重帳簿をつくる。証拠書類を裏山に隠す等)といった悪質な行為があった場合に、これを厳しく罰するために課されるものです。しかしこの件では、「隠す」はおろか領収証をこれ見よがしに領収証の束に入れていたのです。したがって当方は、「これのどこに仮装・隠蔽があるのか。冗談はやめてもらいたい」と強く拒否しました。
どうやら、重加算税の対象となる税務調査を行った税務署員は、成績面でいい点が取れるようです。したがって近年ではしきりに「重加算税!」と言ってくるようです。そしてこの「ダメ元」ともいうべき主張に、多くの弱腰の税理士が従ってしまいます。だからますますこの「重加算税!」がはびこります。これは重加算税の不当な大インフレ。少なくとも私にはそう思えてなりません。そしてこの件が典型的な事例なのです。
さて当方の拒否に対しても、先方は頑強に主張してきます。結局「署に持ち帰って検討」となりましたが、「署でも重加算税」でした。その後、税務調査自体は決着しましたが、この件は宙ぶらりんです。この件を含め社長とともに税務署に呼び出されもしましたが、当方はむろん「断固拒否」です。そしてその場で、「課税処分として重加算税をかけてくれ。こちらは異議申立や裁判で争うから」と伝えました。この争いなら負けるはずがないと確信しているからです。
それでも先方はねばります。人事異動による新担当者も「前任者からしっかり引き継ぎを受けている」などと言って迫ってきます。しかし自信がないのでしょう。重加算税の賦課決定はしようとしません。
結局、スタートから10ヶ月を過ぎた頃に、先方から突然「重加算税は撤回する」と言ってきました。争いが起こせなくなった分がっかりしたのと、理屈抜きにほっとしたのとで、複雑な気持ちがしたものです。いずれにしても、「税務署の理不尽な脅しには屈してはならない」、ということの見本のような一件だったわけです。