これは2~3年前の話です。約1年前に申告した大阪の八尾市の相続案件につき、税務調査を行いたい旨の連絡を税務署から受けました。むろん拒否するわけにはいきません。早速これを納税者に連絡し、大阪の長男宅に出向き直前の検討会を行いました。被相続人はその父です。
早速申告内容を復習しつつ、税務署が突っ込んできそうな点を重点的に検証していきました。するとその過程で、長男から「今になってみれば、気がかりになる話がある」と、次のような経緯の説明を受けました。
- 約20年ほど前に、亡父が相続税対策としてある損害保険契約に加入した
- それは全額借入れによる1億円の一時払い保険。これを5年間の契約期間中に、保険の持分を5人の親族に毎年400万円ずつ贈与する(贈与税は払う)
- 本来は保険の運用益で大半の借入金が返せるはずだったが、ダメだった。
- そこで5年後の返済期日に、とりあえず贈与した持分を回収して返済した。
- 15年前に終わったこの話はそのままで放置されている。
これは大変な話です。つまり被相続人が贈与した1億円を4人の親族から借入れて、自身の1億円の借金を返済したわけです。そして今に至るも借金はそのまま。したがってこれは相続財産に計上すべき負債なのです。ちなみに几帳面な長男は、その事実を証するすべての書類を保存していました。
さて税務調査の当日、ひとしきり調査の終わった段階で、当方からこの1億円の負債の件を詳細に説明し、相続税の還付を依頼しました。すると先方は、証拠書類のコピーを受け取った上で「署に帰って検討する」とのことでした。
数日後の回答は「還付の請求の期限は過ぎているから還付には応じられない」というものです。その気持ちは分からなくはありませんが、そもそも税務調査は、「納税者の申告が国税の規定に従っていなかった場合に税務署長がこれを更正する」という税法の規定に基づいたものはずです。つまり税務調査は、徴収する場合のみでなく還付となる場合にも更正しなければならないはずなのです。
これを主張すると、先方は突然「申告内容をすべて是認する。これにて税務調査を終了する」と言い出しました。還付の請求期限が過ぎている以上、税務調査が終わってしまえば還付の途は途絶えるはずという理屈です。
冗談ではありません。既に1億円の負債の件は証拠書類とともに伝えてあります。にもかかわらず不都合な部分を放置したまま、一方的に税務調査を終えることなど許されないはずです。
そこで先方に通告した上で、八尾税務署長宛に長大な上申書を提出しました。むろん内容は、詳細な経緯を説明した上での税法の規定に基づき還付すべき旨の強い要請です。内心では還付に応じる確率は五分と踏んでいましたが、税務署は全額(2,000~3,000万円)の還付に応じました。「税務署もそう捨てたものではない」と思ったしだいです。