過去二回にわたり、京都大学の入試不正に関して、通信事業者による守るべき通信の秘密の不当な公開と、大学人の非常識・卑劣ぶりを批判した。
今回は、この事件におけるメディアや警察のご都合主義や、予備校生の側のとるべき対応等について考えてみたい。
まずはマスコミ。彼らは日頃、通信の秘密の重要性を主張している。とりわけ情報源の秘匿に関しては、自身の問題でもあり「死守する」といった対応をとる。
したがって本来であれば、通信事業者が行った、ネット発信者に関する警察への安易な情報提供は、マスコミが一番に問題にするべき点のはずである。
しかし今回、この点を指摘したマスコミは皆無。全くもって情けないというより他ない。
その理由は二つほど考えられる。ひとつ目は、マスコミからは、真実の追究・社会正義の実現といった使命感が、どんどん薄れているという点である。
ふたつ目として、ネットがマスコミ自身の基盤を、大きく脅かしている存在であるという点。つまり匿名性の喪失というネットのマイナス面の増大は、既存のマスコミにとってはうれしい話となる。要するに「敵に塩を送ることはない」というわけなのだろう。
要するに、マスコミのレベル・志があまりに低いのである。
ここでしっかり確認しておく。ネットを利用した不正の手法は、世のIT化の進展のなせる技である。この予備校生は、単にこれを最初に実行したに過ぎない。
にもかかわらず、「彼が実行したからこそ、新たに面倒な事態が生じたのであり、彼の行為は到底許せない」といわんばかりの主張がなされている。
ましてやこの程度の不正で、警察は彼を逮捕してしまう。そもそも試験のカンニングなど日常茶飯事であろう。事実、カンニングでの逮捕・立件は前代未聞という。
おそらくこの予備校生は、自身の抜群の指使いとネットの強さを生かして、ゲーム感覚を含め、そう深く考えないままに実行したのではあるまいか。
むろんカンニングはれっきとした不正であり、それが判明すれば即不合格等の処分がなされよう。しかし繰り返すが、それだけのことに過ぎない。
ところが、被害者面の大学当局の卑劣な行動から始まる一連の騒ぎで、彼はおもちゃにされてしまった。
では一体これが「逮捕」に価するのか。
そもそもカンニングを罰する法律はないという。したがって警察は、「入試制度そのものを混乱させた点を重視し、大学の業務を妨害した偽計業務妨害容疑」での逮捕としている。
しかし彼の受験は平穏に終わっている。試験業務は何ら妨害していない。「入試制度そのものの混乱」など、「今後の管理が面倒になる」ことを指して、大学側が勝手にいっているだけのことだ。
また仮にそうした面があったとしても、前述のとおりそれはIT化の進展によるもので、彼の責任ではない。常識的に考えて、偽計業務妨害罪が成立するとはとても思えないのである。
にもかかわらず大学側から被害の相談を受けた警察は、通信の秘密を犯しつつ一気に彼を逮捕してしまう。偽計業務妨害の「疑い」とか「容疑」など、拡大解釈をすれば何とでもいえるからだ。
ちなみにこんな荒っぽいことがやれるのは、マスコミが世論を煽ってくれている点が大きかろう。
それでも現状の世論は、大学側に点が辛く予備校生にはやや同情的なようだ。さすがにこの国の人は、見るべきところは見ている。
しかしワイドショウのレポターらは、この予備校生の家族や知人等を追い回す。
またマスコミは、すでに彼が通っていた予備校の責任者にさえ頭を下げさせている。
何より怖いのは、極めて多くの無関係の人が、「正義が悪を懲らす」という体裁で、電話その他で強烈かつ洪水のように非難してくるらしいのだ。この卑劣さは例えようがない。
しかしこんなアホどもの話は、「ハイ、ハイ」と聞き流しておけばいい。むろん気にする必要など全くない。
予備校生のやったことは普通のカンニングである(まあ入試でこれをやる、というのはかなり度胸が必要であったとは思うが)。そしてそれ以上でもそれ以下でもない(いや本音をいえば、彼は実質的には、大学やマスコミ・警察からおもちゃにされた被害者なのであるが…)。
したがって、それに見合うだけの十分な反省をすればそれで終わり。こんなつまらない話はさっさと忘れるべきだ。そして今後の人生を精一杯生きてほしいと思う。