高速道路の原則無料化によるCO2の排出量の変化に関して、国交省と環境省が正反対の試算を発表したそうです。5月8日の読売新聞の記事です。
それによると国交省は25万トン減るといい、環境省はむしろ33万トン増えるといいます。いずれも全国の高速道路37路線で、6月から実施される無料化実験を前提とした試算です。
正反対になった理由は、試算を行うに際しての前提条件の違いにあります。国交省の前提は、無料化による鉄道利用者等の車への移行を無視し、「交通量(手段)は変わらない」というもの。確かにこれであれば、「一般道の渋滞が緩和されるからCO2は減る」という結論になるでしょう。
一方の環境省の前提は、平成17年統計の総交通量が変わらないと仮定し、その中で高速道路・一般道路・鉄道のうち、人々が最も早くて安い方法で移動するとして試算します。その結果、多くの人が鉄道から車へ移行する結果、CO2の排出量は増加するという結果を導いたわけです。
ただし環境省は、車の利用増で生じる渋滞を考慮していないとして「交通状況によっては、試算より排出量が増えるおそれがある」といいます。そして小沢環境大臣は「あくまでモデル計算の結果。無料化後は実際のデータをもとに、しっかり分析したい」と述べたそうです。
あまりにバカバカしい話です。高速道路が無料になれば、今まで家で寝ていたであろう人が車で出てくるはずです。つまり誰がどう考えても、総交通量自体がかなり増えるに決まっています。この総交通量を無視したのでは何を言ってもはじまりません(これに比べれば、環境省が無視したという「渋滞」などしれているでしょう)。
そもそも民主党は、「無料化は地方の観光地を潤す」と言っていたではありませんか。寝ていたはずの人が観光地に行くからです。つまり無料化は環境面に少し目をつぶって、地方の景気対策に力点を置いた政策であったはずです。そしてこれはこれで一理はあると思います。
しかし何でも「かっこつけ」の民主党は、「無料化は環境面でもそんなに悪いものではない」と言いたくなったのでしょう。しかし繰り返しますが、増えるに決まっている総交通量を「一定と仮定」した環境省の試算など、何の意味もありません。
ましてや「交通手段は変わらない」という国交省の前提はお話になりません。むろん無料化は、鉄道等から車へかなりシフトさせるでしょう。何せ車ほど楽で便利なものはありません。出張や旅行はもちろん、遠距離通勤者も車派が大きく増加するはずです。
総交通量、交通手段、渋滞の増加…。結局どこをどう考えても、無料化は相当量のCO2を増加させるはずです。
そもそも統計は、その前提条件を操作すればどのような結論でも導くことができます。そして両省のこの「試算」こそ、役所の統計のご都合主義的デタラメさを、ミエミエにさらけ出しているわけです。
つまり無料化を推進しようとする国交省は、当然ながらCO2を少なくみせたい。一方環境を重視すべき環境省は、立場上CO2の増加に懸念を表明しておかなければならない。ただし民主党のマニュフェストを潰すようなレベルまでは踏み込んではならない。これらの試算結果は、こうした両省の思惑をストレートに反映しているのです。
思えば、役所は自身の縄張り拡張や面子維持等のために、統計操作を行いこれを利用し続けてきました。ダムや高速道路・空港を造りたければ予想利用量を水増しする。年金の破綻を隠したければ予想出生率を多くする。地価政策がうまくいっていると見せたければ公示価格を操作する…。もう枚挙に暇がありません(わたし自身、専門分野でこの現実をイヤというほど見せつけられています)。
結局のところ役所作成の統計は、そのほとんどすべてが役所の思惑を強く反映していると考えなければなりません。有り体にいえば、それらのほとんどがインチキなのです。
ところが役所ベッタリのマスコミや御用学者(売れている学者にはこの種の人がかなり多い)は、これを真実であるとして動きます(本来は彼らこそ、それらを批判的に分析しなければならない立場にあるのですが)。したがってわれわれは、自身の目でしっかりその真実性を見抜いていかなければならないわけです。