11年度の最終的な就職率が93.6%と4年ぶりに改善したという。厚労省と文科省が5月に発表した大卒対象の「就職状況調査」の結果である。確かに11年度は多少の改善はあったのかもしれない。
しかし一見9割超の大卒者が職に就けているように見えるが、これは役所お得意の統計操作である。10年度での実態は、就職できたのは全卒業生の61.6%。大学院等への進学者を除いても70.6%に過ぎない。
要するに進学者を除いても、実に卒業生の約3割が実質的に職に就けないのである(これらは東京新聞による)。
インチキ統計の「からくり」の大きなものは、就職率計算の分母となる就職希望者数を年度末になるにつれて、どんどん減らしてしまうことにある。就活がうまくいかなかった人や公務員試験や各種資格試験の失敗者を、分母から外してしまうというのだ。
こうした人はもはや求職活動をしていないのだから、就職希望者から除外して構わないという理屈なのだろう。そんな「就職率」であれば高くなるに決まっている。
またこの統計の基盤もかなり怪しい。実は調査対象は、40万人近い卒業生のうち6,000人強をピックアップしているに過ぎない。何より彼らの所属大学が、国立大学や有名私立大学といった、もともと就職しやすいところがかなり多いというのだ。
このインチキ統計の一方、文科省は毎年8月に「学校基本調査」に基づく全大卒者に対する就職率を発表している。先の「3割が職にあぶれる」といった数値がこれあり、これこそが本来の姿を示している。
したがって各大学の就職担当者は、「90%以上の就職率など、全く就職の実態を反映していない」と口を揃える。「今日も厳しい雇用情勢は変わっていない」とも言う。
また就職留年経験者も「留年すれば何とかなるという甘い考えはダメ。他の人には絶対勧めない」と体験を語る。
その一方で、中小零細の企業からは今もかなりの求人がある。しかしそうした先への就職者は未だに限られているという。
確かに、きつい仕事を避けようとしたり安定的な職場を望む気持ちも分からなくはない。しかし職にあぶれるよりはるかにいい。ましてや零細企業でも立派な人生はいくらでも歩める。このようなミスマッチは、本人や企業さらには日本経済にとって極めて不幸な事態なのである。
にもかかわらず厚労省等は、「就職率は9割以上。前年比でもかなり改善」などという数値を垂れ流す。となれば就職を目指す学生も緊張感が緩む。つい高望みをしてしまう。
さらには昔の楽だった就職しか経験していない親も、「状況が改善した」などと思ってしまう。この油断が取り返しのつかない判断の誤りにつながりかねない。
本来なら、大学や零細企業を回ること等を含め、極力このミスマッチを解消させるべきであろう。こうした額に汗する活動により、本来の「就職率」を向上させる。これがあるべき雇用・労働行政なのではあるまいか。
それが嫌なのであろう。学卒者の「3割が職にあぶれる」という危機的状況に目を背け、「9割以上が就職OK」のインチキ統計により、雇用状況は回復・順調のイメージを振りまく。
これにより役所は、「危機を放置した上での怠惰な行政」との批判を避けることができる。そしてそこでは、インチキ統計により学生や親族が油断するであろう大きなマイナス面には目もくれない。
結局役所・役人は、自分さえよければ、他人がどうなろうと本来業務がどうあろうと知ったことではないのである。