西武ホールディングスは4月28日、来年3月での赤プリ(グランドプリンスホテル赤坂)の閉鎖と、40階建ての新館の取り壊しを発表しました。これにより、新館はわずか28年で取り壊されることになります。
理由は、ホテルの老朽化による競争力の低下。跡地は複合施設による再開発を予定しているとのことです。ただし広報担当者は、「ホテル自体は黒字経営であり、営業不振で閉鎖するのではない」と話しています。

赤プリ閉鎖・取り壊しのニュースは、かなりの驚きを持って迎えらました。とりわけ都心一等地に威容を誇った40階建ての新館は、バブル期に一世を風靡し、各界・各層に強い印象を残しています。
したがってネット等には、驚きとともに「寂しい」という声が強く示されています。同時に時代の趨勢から、「これも致し方ない」という声が主流のようです。

しかしこのわずか28年での取り壊しは、どうにも釈然としません。膨大な資源の投入により完成した建物。これを自分の勝手な都合で簡単に取り壊していいのだろうか、という疑問です。

確かに、「自分の土地上の自分の建物をどうしようと自由ではないか」とはいえるでしょう。むろん取り壊し費用も、新たな建築の費用も自分が出すわけです。これらには一切の違法性がない上に、他人に迷惑をかけるわけでもありません。
したがってそこには権利の濫用という法的側面はみられません。つまり本来の「私有財産不可侵原則」の範囲といっていいものと思います。

しかし今や「地球環境」の時代です。資源には限りがあります。国内事情を考えても、取り壊し後の廃材の処分場は不足しているはずです。要するにこうした建物の取り壊しは、環境に大きな負荷をかけてしまうわけです。
もちろんどのような建物も、やがては取り壊ししなければなりません。今日あちこちで建てられている超高層ビルもそうした運命にあります。
しかし同じ取り壊しにより環境に負荷をかけるにしても、その建物を十分使い尽くしてからにしていただきたく考えます。使用期間が長ければ長いだけ、取り壊しの総量は少なるからです。そもそも短期間での取り壊しは「もったいない」といえましょう。

これを赤プリの新館でいえば、最短でも40年間ぐらいは使ってほしいところです。そもそも「28年で老朽化」など建物に失礼というべきであり、その見通しのお粗末さは強く責められていいはずです。
もっともこれが倒産によるものなら致し方ありません。しかし「ホテル自体は黒字経営であり、営業不振で閉鎖するのではない」と言っているではありませんか(まあこの話は、多少割り引いて聞く必要もありましょうが)。
であれば、老朽化は改装工事で切り抜ける等により、歯を食いしばってでも安易な取り壊しは避けるべきです。「武士は食わねど高楊枝」。27年前に最高・最適なホテルとして新築したはずである以上、それぐらいの意地とプライドを示していただきたい。それが大会社の社会的責務、道義的責任であると思います。

今ここで、「社会的責務、道義的責任」と記しました。しかしこうした発想はまだ少ないのかもしれません。それは「赤プリ取り壊し」についての報道やネット上の書き込みには、こうした観点からのものが全くといっていいほどみられないことからもわかります。
また「新しい物好き」の日本人にとっては、「建てては壊す」ことに抵抗感が少ないという点もありましょう。これは国民性なのかもしれません。

さらに今日では、実質的な容積率アップ政策の誘導もあって、都心部等においては「建てては壊す」があちこちで行われています。これが苦境に苦しむ日本経済を下支えしているのは確かです。赤プリの再建築も、日本経済には相応のプラス効果が働くでしょう。
しかし繰り返しますが、今日このような安易な取り壊しは許されるとは思いません。現在の行政法規を含む法体系にしても、地球環境をまったく意識していない時代の発想のものでしかありません。

人類がかって予想もしなかったこの新しい時代。「赤プリ取り壊し」は、「建てては壊す」ことの是非をじっくり考える機会を与えているように思えるのです。