“(検察と)同じ穴のムジナといえばそれまでだけど、今度は警察が取調室で一般人に大暴言ですよ。任意同行にもかかわらず7時間の拘束。これが4時間も録音されていたんだねー。「お前の人生を無茶苦茶にしてやる」。テレビで流された一部を聞いたが迫力満点。これが密室の取調べの実態です。さあどう出る警察”。

これはこの10月8日に載せた私のツイッター。むろん検察は「お友達」の警察関係者の身びいきをするべく、いろいろ考えるに決まっている。とはいえ今日では検察審査会という強敵があり、今までのように易々とはいかないはずだ。
この件につき最近いろいろの動きがある。そこでその紹介を兼ねて、検察やその背後にいる裁判所について考えていきたい。

この警官は大阪府警東署の34歳の高橋警部補(以下Aという)。Aはそこに同席していた32歳のB巡査部長とともに、被害者の会社員男性から特別公務員暴行陵虐罪で告訴されている。

しかし大阪地検特捜部は今月21日、「明確な暴行などは認められない」として、Aを脅迫罪で略式起訴、Bは「容疑なし」として不起訴処分とした。
略式起訴とは、交通事故事案によく見られる簡易裁判所による即日一回結審で、50万円以下の罰金等を宣告しただけで終わるだけのもの。実質的には、無罪に毛の生えたようなものかもしれない。

さらにこの略式起訴となる脅迫罪という刑事処分については、「軽い罪で起訴することで、検察審査会への申立をさせないための狡猾な手段である」と、被害男性の弁護団はこれを強く批判している。

この事件は、強大な権力を握る警察が、証拠を示すことのできないまま、無実の会社員を7時間もあらゆる方法で脅しまくった事件である。
そして同席者もおり、またその怒鳴り声は他の部署にも十分聞こえていた。つまりこれは身の毛もよだつ組織を挙げての脅迫行為。おまけにこの7時間が「任意同行」なのである。

これが日本の警察の常態である。警察の大幹部が全国的な異動を行っている以上、これは全国の警察で行われていよう。一体この国の「法治国家」はどこに行ったのか。こうした実態が、希有な形で表面化したのがこの事件なのである。

にもかかわらず、検察はこの両名につきほとんど「おとがめなし」とした。仮に検察がこれを真っ当に訴追すれば、警察はもう怖くてそうした行為はできなくなる。要するに検察は、「今までの強烈な脅迫的な自白の強要を、警察は今後も維持すべし」と言っているのである。
ついでにいえば、この決定をしたのが証拠偽造等で揺れている、あの大阪地検特捜部。今や「まな板の上の鯉」のはずなのだが、全く懲りる様子はないらしい。

ところが28日に、大阪簡易裁判所の西倉亮治裁判官は、このAに対する略式起訴を不当と判断した。これにより通常の裁判が開かれることになる。簡裁によると、こうした判断が行われた例は数百件に1件程度で、極めて珍しいという。

この判断に関して、弁護団は「身内に甘い検察の対応に裁判所がNOを示した」と大きく評価。さらに弁護団は同日、不起訴となったBに対しても、付審判請求書を大阪地検へ提出した。

付審判請求とは、検察官が公務員の職権乱用に関する告訴・告発を不起訴とした場合に行うことができるしくみだ。地検は意見をつけた上で、出された請求書を地裁に提出する。そして地裁が審判に付すと決めると、検察官役の弁護士による公判手続きが始まるという流れである。

ところが過去18,000人の付審判請求が行われているが、裁判所がこれを認めたのはわずかに22人(しかもそのうち無罪が8人)しかいないという。率にして約0.1%。まさに「役所・役人の守護神」としての、裁判所の面目躍如といったところである。

さて私は従来から、こうした警察・検察のデタラメの原因を、「これらのほとんどすべてを裁判所が許しているから」という点に求める、いわば「裁判所主犯説」を唱えている。
そしてその象徴が、いつも指摘する「有罪率99.9%」である。この際これに、付審判の棄却率のほぼ「99.9%」を加えておくこととしよう。

今日の検察・検察のデタラメの表面化に際しては、裁判所は密かにその延焼防止に躍起になっているはずだ。裁判所は、この「裁判所主犯説」の浮上を最も恐れていよう。さらに検察等を含む役所全体も、同様にこれを恐れている。

こうした世論が起これば、裁判所等にはこれに抵抗する術はほとんどない。となると裁判所は「役所・役人の守護神」を続けることができなくなる。裁判所にあるのは権威だけ。その権威がなくなれば裁判所は機能しなくなってしまうからである。
こうした考えに対しては、「甘い」という意見もかなりあるようだ。しかし私はこれを確信している。

さてこの事件は、裁判所の姿勢を占う格好の材料となる。その意味から、先の略式起訴を「不当」とする簡裁の西倉亮治裁判官の数百件に1件程度という大英断は、大いに期待を持たせる。
しかしこ裁判官(63歳)は、検察の事務官出身(正式な法曹資格は有していない)という。つまり裁判所では全くの傍流であり、残念ながら、裁判所全体の流れを表しているようにはみえない。

とはいえ先のBへの付審判請求や、Aに対しておこなわれる正式の裁判がどうなるか。今後の裁判所の出方を見る上での、誠に興味深いリトマス試験紙となるはずである。今後もこれらを注視していきたい。