東電OL殺人事件の受刑者(無期懲役)であるゴビンダ氏が、予想どおり冤罪である可能性を示すDNA鑑定の結果が明らかとなった(21日読売新聞)。
これによりこの事件は再審開始決定、さらには無罪判決への流れが確定的になったといっていいだろう。
昼は東京電力の管理職、夜はネオン街に佇む娼婦という二つの顔を持つ女性(39)。彼女が売春客から4万円奪われ殺害されたのは、平成9年3月である。場所は渋谷区円山町の古アパートの一室だった。
間もなく、たまたまそのアパートの鍵を預かっていた、ネパール人のゴビンダ氏(当時30才)が逮捕された。彼はインドレストランに勤務する不法滞在者で、仲間2人とそのアパートの隣接のビルの一室に共同で住んでいる。
結論を先に述べると、彼はしっかり審理された一審で無罪判決を受けるも、二審では、数ヶ月後には無期懲役の逆転判決を受けてしまう。
しかし以下に述べるとおり、当初からこれは冤罪であると考えられていた。
検察の主張は、行為に及んだ後にわかにハンドバック内の金を奪おうとしたところ、抵抗されたので殺害したというもの。その証拠としては、その際トイレ内に放置されていたコンドーム中の精液が、被告人のDNAと一致した点。またバックにわずか付着した血液が彼のB型と一致している。
しかし実はゴビンダ氏は、既に3回彼女の客になっている。一回目は彼が住む部屋。二回目以降は、彼がたまたま鍵を所有するこの空室アパートである。そしてその三回目が事件発生の10日前だった。つまり彼は、件のコンドームはその時に使用したものと主張するのだ。
そこで採取された精液が、いつのものであるかが科学鑑定された。結果は「ほぼ10日前のものと思われるが、トイレの水質によっては当日のものの可能性も捨てきれない」であった。
またアパート内からは、ゴビンダ氏の複数の陰毛の他、第三者のものも1本発見されている。実はこのアパートは、10日前に使用したゴビンダ氏は鍵をかけていない。また部屋の窓の鍵もかかっておらず、それを知る彼女は、それ以降もここを「仕事場」としていた可能性は高いのだ。
さらに彼には動機は見あたらない。数万円程度であれば貸してくれる仲間もいるのだ。いやそもそも、顔も住所も知られている彼女から、金を強奪しようなどと考えるはずがない。コンドーム等の放置も考えられない。
また事件の4日後に、被害者の定期券が巣鴨で発見されている。ゴビンダ氏には縁もゆかりもない所である。ついでにいえば、彼は厳しい取調に対しても否認を貫いている。
結局とのところ、真犯人は行きずりの客としか考えられない。またそう考えればすべて説明が付く。そしてこれらを踏まえて、12年4月の一審判決では当然の無罪判決がなされたわけである。
となれば不法滞在者であるゴビンダ氏は、本国への強制送還となる。ところが検察庁は彼を控訴した。その上で、検察は彼の身柄勾留を裁判所に申し立てたのだ。
いくら何でも、無罪判決の出た人の勾留など法理論上からもあり得ない。ところが裁判所は最終的にこれを認めてしまう。もう無茶苦茶。彼は東京拘置所に逆戻りとなった。
控訴審は何の新事実も出ないまま、わずか3ヶ月あまりで判決を迎える。そして12年9月に無期懲役という驚くべき判決となった(15年11月に最高裁で確定)。
この件が示すように判決など何とでも言える。この手のどうしようもない裁判官(この種の人は少なくない)にかかれば、真実もへったくれもないのである。
彼はその後、再審請求を行う。そして再審請求審で、弁護側の要請に基づき裁判所が検察側に、加害者の精液のDNA鑑定を指示した。そして今般、それが彼のものでないのはもちろん、現場に残された第三者の1本の陰毛と一致したというのである。
これではどう考えても、その第三者が真犯人としか思えない。むろんゴビンダ氏は無実である。これで再審開始決定がなされ、彼の無罪が確定する運びとなろう。
それにしてもこのDNA鑑定を含め、検察は裁判所に「やれ」と言われなければ、自身が不利になることは一切やろうとしない。真実がどこにあろうが、それにより冤罪が発生しようが全くお構いなしである。
そしてそれが分かっているはずの裁判所も、検察に「やれ」とは滅多に言わない。「冤罪大国日本」を象徴する風景なのである。