広大地評価の税務はお任せください

広大地評価についての諸問題

 今日、相続税申告に際しては、広大地の減額規定を適用した上で評価するかどうかの判断が圧倒的に重要となっています。その理由は主に2つです。

  1. 広大地の減額率が極めて大きいため、この適用の可否によって、税額に「天国と地獄」ともいうべき大きな差が生じること
  2. 規定の一部のあいまいさと国税当局のご都合主義的解釈によって、適用した場合に当局から否認されるリスクがあること。

 とりわけ 2.の点は、税理士の頭を悩ませます。そもそも一般の税理士は、こうしたリスクが少しでもあれば減額規定の適用をしようとしません。適用した後にこれを否認されたら、納税者に本税の納付はもちろん過少申告加算税や延滞税まで課されてしまいます。となれば税理士としての立場がなくなります。ですから税理士はこれを恐れて「無難な評価」に逃げ込んでしまうのです。

 ところがそうした評価は、実のところ「どう考えても広大地の適用がなされるべき土地」である場合が少なくありません。であれば仮にこれに対して税務署が何か言ってきても、毅然として否定すればいいだけのことです。つまりそうした逃げの対応は、単なる税理士の勉強不足や国税当局に対する弱腰の姿勢に起因しているに過ぎないわけです。

 確かに広大地の評価に関しては、先の 2.の弱点(規定のあいまいさ、ご都合的解釈の余地)があります。そのような事案に当たった場合には、私もどうすべきか悩んでしまいます。

 しかしそのように本当に悩ましい事案と、全く問題ないはずの事案とは峻別されなければなりません。ところが一般の申告書を目にすると、全く問題なはずの土地であるにもかかわらず、単なる「逃げ一辺倒」ともいうべき評価が目立ちます。しかしそのようなことで、払わなくていいはずの何百万円、何千万円の税額を払わされたのでは、納税者はたまりません。

 やはり相続税申告業務(とりわけ広大地の規定への対応)に関しては、担当税理士には、不動産に強いことと税務署に強いことという2つの要素が極めて重要であることを痛感するしだいです。

 以下に、「広大地の規定がどのようなものか、そしてその規定を適用するに際して何がどのように問題となるのか」等について、簡単に説明することとします。なおこれらの詳細については、共著「広大地の税務評価」((株)プログレス)をご参照下さい。

1.広大地の規定及びその趣旨

(1)規定の内容

 財産評価通達24-4は、広大地を「標準的な宅地に比して著しく地積が広大で、開発行為を行うとした場合には、道路等の公共公益施設用地の負担が必要と認められる宅地(ただし大規模工業用地とマンション適地を除く)」と定義しています。
 そしてこれに該当する土地(これを広大地といいます。なお単に面積が広い土地をここでは面大地(メンダイチ)ということにします)に関しては、広大地補正率を次の算式で求めることとし、広大地の評価額を大幅に減額しています(平成16年改正)。なお一般に広大地の面積は、大都市圏で500m²以上、地方圏で1,000m²以上とされています。

   広大地補正率 = 0.6 -(0.05×広大地の面積÷1,000m²)

 その結果この規定により、標準的なの土地の単価を100とした場合には、500m²の土地は62.5、2,000m²で50、最大面積とされる5,000m²で35(それ以上の面積の場合は、35で打ち止めと思われる)となります。

 このように広大地の評価額は、従来の相続税評価の規定ではちょっと考えられない程大きな下落幅を定めているわけです。

(2)規定の趣旨

 とはいえこのような面積の広い土地(面大地)の実際の市場価格は、実際に大きく下がります。したがってこの減額規定は、当然のことを定めたといっていいものと思います。そこでまずは、面大地の市場価格を考えてみましょう。

 そもそも一般に住宅地は、面積が広くなればなるほどその単価は下がります(これを鑑定評価では「面大減価(メンダイゲンカ)」といいます)。ではなぜ面大減価が発生するのでしょうか。

 まずマイホームに当てることのできる資金には3,000~5,000万円程度と、限度があります。その意味から、郊外での新規の建売りや分譲物件の宅地面積は、その多くが100m²を基準としています。広い土地は、私道を造成する等により、とにかく100m²といった面積に区画割りしていきます。逆に150m²とか、きれいにこうした面積に区画割りできない200m²~300m²の土地の単価は、軽く2割程度は下がってしまいます。

 さらに500m²以上の面積(大都市圏の場合)の土地を開発しようとすると、市等の行政側から、造成する道路等に関して、幅員や位置等に関してかなり厳しい指導がなされます。その結果、こうした行政からの「開発許可」を得た上でないと、開発することができないことになっています。この許可に当たって行政側は、住環境や災害対策の見地からいろいろ要求します。そして開発面積が広くなればなるほど、その内容は(緑地の確保等)厳しくなっていきます。

 こうした面大地は、宅地開発事業者が買い手になります。つまり面大地の市場価格は、こうした開発事業者の仕入れ値として形成されるわけです。

 しかし事業者が住宅地として一般の消費者に売却するには、各種の費用等が必要となります。まずは道路等の公共用地の確保の他、造成費(水道等の敷設を含む)、販管費等の諸経費です。さらには事業のリスクや適正利益の確保も必要です。これらを考慮すると、宅地開発事業を採算に乗せるには、面大地の仕入れ値はかなり安くなければなりません。

 したがって広大地の実勢価格は大雑把にいって、(地形にもよりますが)1,000m²クラスで3~4割減、5,000m²クラスで5~6割減程度にはなるものと考えられます。

 以上が面大減価が発生する主な理由です。であれば相続税評価においても、こうした面大減価を的確に反映する必要がありましょう。そしてその要請に応える規定が先の広大地の減額規定なのです。この広大地の規定(減額率)は、面大地の特性である面大減価を反映した極めて妥当な規定となっているわけです。

2.適用除外規定

(1)評価通達が定めるもの

 ところが土地によっては、面積が広いことはあまりマイナスにならない土地、さらにはむしろ単価が増えるような土地があります。であればそのような土地は広大地の規定を適用するべきではありません。
 そこで広大地の規定を定めた財産評価基本通達24-4では、その意味から次の2種類の土地を、この規定の適用除外としました。マンション適地(店舗や事務所ビルを含む)と大規模工場用地です。

 まず後者の大規模工場用地に関していえば、面積が狭くては工場になりません。したがって、土地面積の広いことはその土地の減価要因にはなりません。広大地の規定を適用除外とするのは当然といえましょう。こうした事情は、マンション用地や事務所ビル用地もほぼ同様です。したがってマンション適地と大規模工場用地の2つを適用除外することは当然といってよいと思います。

 そこまでは分かるのですが、この点につき実務上悩ましい問題があります。評価対象となる土地がマンション適地かどうかの判断が難しいのです。たしかに大都市中心部の駅前の土地であれば明白です。しかしその周辺の土地、さらにもう少し郊外の土地、さらには・・・。こうした規定のあいまいさに関しての実務上の問題は、後述することとします。

(2)「16年情報」による適用除外

 次に、大元の評価通達24-4の規定の解釈通達として、平成16年に国税庁から「情報」が示達されています(これを「16年情報」といいます)。そしてそこには、「広大地に該当しない条件の例示」として、次の4つの土地を具体的に掲げています。

  1. すでに開発を了しているマンション・ビル等の敷地
  2. 現に宅地として有効利用されている建築物等の敷地(例えば、大規模店舗、ファミリーレストラン等)
  3. 原則として容積率300%以上の地域に存する土地
  4. 公共公益的施設用地の負担がほとんど生じないと認められる土地

 このうち 3.(容積率300%以上)と 4.(公共用地がほぼ不要)は、評価通達の規定との整合性がとれています。しかし 1.(マンション建築等の開発済み)と 2.(郊外レストラン等現に有効利用中)には、合理性を見出すことができません。

 そもそもここでの課題は、土地の評価(公開市場で売り出せば、いくらで売れるか)です。つまり土地の利用状況は評価には関係ありません。有効利用がなされているからといって、高値で売れる保証はないからです。

 例えば 2.の郊外レストランでいえば、そのほとんどが身軽な土地の賃借で済ませており、賃借人はこれを買う意思はありません。仮に購入するとしても、(本来のマンション適地でない限り)面大減価発生によりかなり低い金額になるはずです。
 何より大元の評価通達は、除外対象をマンション(ビル用地を含む)適地と大規模工場用地の2つに限定しています。マンション適地とは直接関係のない 1.や 2.を除外せよとは定めていないのです。

 したがって、この 1.と 2.を広大地から除外するという「16年情報」の記述は、単に不合理であるにとどまりません。それは解釈通達という下位規定に過ぎない「16年情報」が、上位規定である評価通達を覆すというルール違反を犯してしまっているのです。

(3)路地状開発用地の除外(「税務の解説書」)

 さらに国税当局は、当局が作成したというべき「税務の解説書」で、平成20年から妙なことを言い出しました(実はそれ以前からも、水面下でかなりこうした主張や取扱いがなされていました)。

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 500~800m²といった一般の面大地は、通常1図のように分割されるため、道路といった公共公益的施設(潰れ地)が生じます。そうであれば、冒頭に記した広大地の定義(地積が広大で、開発行為を行うとした場合に、道路等の公共公益施設用地の負担が必要と認められる宅地)に該当します。これにより広大地の減額規定が適用できるわけです。

 しかし同じこの土地を2図のような土地(国税側はこの土地を旗竿地(ハタザオチ)といいますが。ここでは路地状敷地ということにします)を含むように開発(これを路地状開発ということにします)するとすれば、道路といった潰れ地は生じません。したがって「路地状開発が可能な土地であれば、広大地の減額規定を適用することはできない」と国税側が言い出したわけです。

 しかしこの主張は明らかに誤りです。理由は主に次の2つです。

 まず路地状開発が可能であったとしても、この面大地の市場価格は大幅に下落しています。理由は、奥の2つの路地状敷地の地価が大きく下落すること。さらにはこの土地の市場価格も開発事業者の仕入れ値(経費や利益の控除が必要)として形成されることです。要するに、開発事業者がどちらの開発方法を採用するとしても、消費者への売値にはさしたる差は生じません。ですから路地状開発ができるからといって、この面大地の市場価格(仕入れ値)は同じようなものとなるわけです。

 もう一点は、2図のような敷地分割は、広大地の定義でいうところの「都市計画法が定める開発行為」に該当していない点です。定義規定は「都市計画法の定める開発を行った場合に潰れ地が生じるかどうか」で判断すると定めています。にもかかわらず、「都市計画法が定めていない路地状開発でやれば潰れ地は生じない」などという主張は、何の意味もありません。

3.実務上の問題

 以上のとおり国税当局は、広大地の適用除外としていくつかの土地を示しています。これを実務上問題となるものとして具体的に示すと上記のとおり次の3種類です。

  1. 評価通達そのものが定める、マンション適地
  2. 「16年情報」がいう、開発を了しまた有効利用がなされている土地
  3. 「税務の解説書」がいう、路地状開発が可能な土地

 これらの土地にどのように対応すべきかについて、以下に順次述べていきます(なお繰り返しますが、こうした内容は共著「広大地の税務評価」((株)プログレス)に、詳細かつ分かりやすく説明してあります)。

(1)マンション適地

 マンション適地に関しての判断は、そう難しくありません。「16情報」が次のように、この点の判断基準をかなり分かりやすく明示しているからです。

 「いわゆるマンション適地として使用するのが最有効と認められるか否かの判断は、その土地の周辺地域の標準的使用の状況を参考とするのであるが、戸建住宅とマンションが混在している地域(主に容積率200%の地域)にあっては、その土地の最有効使用を判断することが困難な場合もあると考えられる。(中略)そのような場合には、(中略)明らかにマンション用地に適していると認められる土地を除き、戸建住宅用地として広大地の評価を適用することとして差し支えない」。
 つまりこの判断基準によれば、第一段階でまずその地域の標準的な使用がマンションか戸建て住宅かを考えます。ここで戸建て住宅が断然多いのであれば適用OKとなります。なおこの検討の際には、賃貸マンションの存在は無視すべきです。この土地を売りに出した場合に最高値を提示するのはマンション屋か建売屋かを判断するための作業だからです。

 第一段階で判断が付かなかった場合には、その地域の容積率が200%かどうかで考えます(第二段階)。200%未満であれば適用OK(300%等であれば適用不可)です。

 第二段階でも判断できなかった場合(つまり分譲マンションと戸建て住宅が混在している場合)には、「明らかにマンション用地に適していると認められる土地」を除き、適用OKというのです(第三段階)。

 以上から、容積率が200%を超えない限り、駅前の土地であるとかマンションだらけといった特殊な地域の土地を除き、広大地の適用がなされることになります。これが評価通達の規定をどう解釈するかに関して、国税当局が「16年情報」で明記した内容です。したがって、我々はこれを忠実に適用していけばいいわけです。この判断は、特に不動産の専門家でなくとも十分可能なはずです。

 それでも多くの税理士さんは、その地域に分譲マンションが少しでも建っていれば「否認されるのではないか」と不安になるようです。そしてついつい「否認される可能性のない無難な評価」として、広大地の減額規定を適用しないのです。
 それではいけません。こうした判断は一般素人の方で十分可能です(むろん税理士も不動産の専門家ではありません)。したがってこのような「無難な評価」がなされそうになったら、納税者自身がその税理士のお尻をたたく必要がありましょう。

(2)有効利用がなされている土地等

 「有効利用がなされている土地」や「既に開発を了している土地」に広大地の減額規定を適用しないとする「16年情報」の記載は不合理であるということは、前述のとおりです。
 とはいえ「16年情報」にそのように記載されていることも事実です。したがって、大型の賃貸マンション等がドカーンと建っているような土地であれば、この減額規定の適用は避けた方が無難といえましょう。
 しかしそこに建っている賃貸建物が、小ぶりのアパートであるとか小さな店舗等である場合には、適用すべきであると考えます。ただしその場合にも、その建物が「16年情報」に具体的に例示されている「ファミリーレストラン」であればやめておいた方がいいでしょう。

 実は、「有効利用されている土地」等を適用除外することについては、現場の税務署員も違和感を有しているようです。したがって、それが大型物件でない限り、ほとんど「おとがめなし」で対応しているようなのです。

 ただしタカ派の税務署員であれば否認してこないとも限りません。その意味から、事案によって、当初申告では規定を適用しないまま高い税金を払っておき、納期限後にこの適用を誤りであったとして税金の還付請求(更正の請求)を行う、という手法も考えられてよいでしょう(これであれば、加算税等を課されることはありません。ただし立証責任がこちらに移ってしまうことにより、主張が通りづらくなるのも事実です)。

 なお私は、かなり大型の賃貸マンションの事案で、広大地の減額を認めさせた実績があります(ただし更正の請求方式による)。

(3)路地状開発適地

 この点に関しては、その土地の奥行距離がどれくらいあるかによって事情が変わってきます(30mを超える土地であれば、一般の路地状開発がやりづらくなると思われ、適用はまず問題はないと考えられます)。なおこれが15~18m以内であれば、いわゆるヨーカン切りが可能であるとして、適用が否認されましょう(この否認については、筆者も賛成します)。

 結局、奥行が20~30mといった土地が悩ましくなるわけです。以下こうした土地を前提に考えてみます。
 結論的にいえば、当初から広大地の適用をした申告書を提出してしまえば、おそらく十中八九は「おとがめなし」となるように思います。ところが更正の請求方式でこれをやると、半分以上のケースで否認してくるのではないでしょうか。とはいえ、さほど多くの経験をしているわけではないため、この推定はあまり当てになりません。

 実は当事務所では、更正の請求方式で当局から否認された事案に関して、現在(平成21年11月)国税不服審判所で争っています。もしこれで負ければ当然に裁判に持ち込むつもりです。しかし今日、国税不服審判所はもちろん裁判所も、実質的には行政機関を守ることをその使命としています。ですからおいそれとは勝てないのかもしれません。
 ただし私は、相続税評価に関する争いにおける勝率は優に5割を超えています。この争いに関しても、負けるつもりは毛頭ありません。「乞うご期待」と申し上げておきましょう。

4.当事務所の方針

 最後に当事務所の方針をお伝えさせていただきます。

 私は、広大地の評価に関する国税当局のご都合主義的な解釈(有効利用地や路地状開発適地に対するもの)は、否定されなければならないと考えています。その理由は、先にも少し述べたとおり次の二点です。

  • これらの土地にも、明白に面大減価が生じていること
  • 大元の評価通達の規定には、これらの土地を適用除外にするとは記載されていないこと

 つまり、税額が高いとか安いとかという問題ではありません(むろんその点も重要ですが)。本来当然に適用されるべきものを、自身の作った規定をネジ曲げてまで課税していいはずがないからです。これは法治国家さらには課税要件明確主義といった、国のしくみの根本を揺るがす許されざる行為なのです。

 したがって、こうした事案にお悩みの方は、当方に是非ご一報下さい。また「マンション適地の判断等について、依頼した税理士が逃げ腰で困る」といった場合も同様です。
 そのような場合には、当事務所が本来あるべき主張を行っていきます。そしてその主張が否認された場合には、異議申立や不服審査(さらには裁判も)を行います。そしてこのような納税者の毅然とした行動によってはじめて、公正な税務行政が実現されていくものと考えるからです。

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