相続税評価を巡る訴訟をどうとらえ、どう戦うか
互いの判断基準は「裁判で勝てるかどうか」/行政側をえこひいきする裁判所/明文規定をいかに見つけるか/「鉄砲玉署員」が争いの引き金に/争訟のポイントはだれでも書ける準備書面/「心の底からの怒り」が勝訴の源/「救うため」に戦います
さて「税務署への強さ」は税務署との折衝の場で最も発揮されます。この折衝のコツは、「税務署の言い分を拒否して、争いに持ち込んだらどうなるのか」を考えることです。その理由には、「税務署もこれを考えて対応している」という点もあります。
繰り返しますが、税務署は多少無理してでも税収を上げようとします。したがって、税務署側はいわゆる「ダメ元」で、違法色の濃い要求を納税者に対して行います。これを納税者側が受け入れれば「もうけもの」となります。
しかし税理士から、「それは到底受け入れられない。強行するなら更正処分をしてほしい。こちらとしても相応の覚悟があります」などと言われれば、先方は困ってしまいます。更正処分には面倒な手続きが必要ですし、何より争いを起こされた上でこれに負けたら、面子丸つぶれとなるからです。
したがって争っても負けないと思えば強気で攻めています。逆に「負けるだろう」と思えば税務署側はすぐ引き下がります。ですから納税者側も、「争えば勝てる」と思えば強気にはねつければいいのです。
となると「争うとどうなるか」に関しての感覚をみがく必要があります。その意味から、税務に関する争いの実態を少しみておきたいと思います。
実は税務訴訟を含む行政訴訟は、裁判所はほとんどすべて役所側を勝たせます。世の中には「行政訴訟はやるだけ無駄」といった声すらあるようです。その原因はいくつかありますが、最大のものは、裁判官が役所を負かす判決文を書くと、最高裁の人事担当者に大減点されるということにあるようです。
「にわかには信じられない」とお考えの読者もおありかと思います。しかし行政訴訟を何件もやっていれば、イヤになるほどこの事実を思い知らされます。
税務訴訟はこの行政訴訟の代表的なものです。税務署の課税処分に納得がいかない納税者は、まずその税務署に対して異議申立てを行います。これを棄却された納税者は次に、中立的存在とされている国税不服審判所に審査請求をすることになります。しかし審判所の構成員も、そのほぼすべてが国税庁に人事権を握られている国税職員です。となればその意向に背くような裁決書が書けるはずがありません。
そしてここでも棄却された納税者は、最終的に裁判を起こすことになります。しかし裁判所の実態も、ほぼ「行政側を勝たせるための機関」に過ぎません。
さらに税務訴訟に限っては、国税側の人間が調査官として裁判所に派遣されています。担当する裁判官に難解な税法を助言するための存在だそうです。要するに被告側の人間が、判決文をどう書くかを裁判官に指導しているのです。これでは勝てるわけがありません。このデタラメともいうべき事実を初めて知った時は、腰を抜かさんばかりに驚いたものです。
これらを反映してか、一部勝訴を含め納税者の勝訴率は未だに10%に届いていないようです。納税者はこうした行政訴訟の実態を知った上で提訴しているでしょう。そこにはよほどの事情があるはずです。それでもこの勝訴率なのです。
争いへの招待
さて「争うとどうなるか」をどう判断するかに話をもどします。そもそもわが国は法治国家です。法令によって明文化されているものに関しては、よほどのことがない限り税務署もこれを受け入れます。こんな黒白のはっきりしたものを争われたら、さすがに裁判所でも勝たしてもらえないからです。したがって判断のポイントは明文規定に反するかどうかです。しかし税理士が、明文規定のすべてに精通しいるはずがありません。
ところで各種の通達を含む法令は「一般常識」に基礎をおいていると考えてよいと思います。したがってまず税務署の主張が一般常識にはずれているかどうかを考えます。「はずれている」と思えば、その点に関しての法令を徹底的に探しします。それが見つけ出せればこちらのもの。明文規定に反する先方の主張など、遠慮なく拒否すればいいのです。
しかし国税側は自身の立場・面子が犯されそうな場合には、黒白がかなり明らかであっても、明文規定のご都合主義的解釈によってこれを押し通そうとします。評価規定そのものの不当性が争点になる場合が典型です。自身が作った規定を裁判所に否定されたら目も当てられないからです。
実は筆者は、こうした争訟(審査請求や裁判)を多数(20件以上)行っています。不動産の税務評価についての争訟の件数であれば、おそらく筆者はダントツであろうと思います。したがって常に3~5件程度の争いを抱えています。
とはいえ筆者は弁護士ではありません。ただし行政訴訟を含む民事の裁判は、そのほとんどすべてを準備書面という書面の応酬により行います。つまりどちらの書面が説得力を有するかで、勝ち負けが決まるのです。
そこで準備書面の原稿を筆者が書くわけです。依頼した弁護士は主にこれを裁判所に提出するだけです。不動産や税務に疎い弁護士にこの種の争いを任せても、裁判にはまず勝てないからです。準備書面の書き方や裁判の要領は、少しやれば分かってきます。これらは税理士が行う国税不服審判所への審査請求とほとんど同じでだからでもあります。
争いを起こす以上、これに負けたら意味がありません。それには争いを起こす事案をよく選択する必要があります。行政訴訟を起こすにあたっての要件は主にふたつです。ひとつは「これを争えば絶対に勝てる」と思われる事案であること。もうひとつは、行政側への「心の底からの怒りがあること」です。
争えば、無茶苦茶ともいうべき国税側の対応や裁判所の訴訟指揮を目の当たりにさせられます。ですからこの2点がそろっていない限り税務訴訟などやっていられません。また勝利もおぼつきません。
とりわけ「心の底からの怒り」は重要です。先方への反論に際して、この強烈な感情がある時フッとすばらしい論理に転化します。この論理が相手方を反論不能に追いつめるのです。その意味からもこれをビジネス目的でやるのは少し無理があるように思います。 ちなみに筆者の勝訴率(審査請求段階のものを含みます)は、ほぼ2~4割水準にあります。「絶対に勝てるもの」に絞ったにしては負けが多いともいえましょう。しかしおそらくこうした厳しい行政訴訟の勝率としては、弁護士業界を含めトップクラスであると自負しています。
以上が筆者の争訟への取り組み方針です。そこで読者の方に申し上げます。「こんなデタラメな相続税評価は絶対許せない。お上と争ってでも白黒をつけたい」という方がおられれば、当方へご一報いただきたいのです。勝てると思えば争訟を請け負います。その際には弁護士費用を含め一切の報酬はいただきません。ただし勝訴により税が還付された場合には、その中から相応の額を頂戴します(要するに成功報酬です。ただし還付が発生しない事案でもOKです)。
事案は、有効利用がなされていること等により減額規定の適用が否定された広大地が一番おもしろいと思っています。その他崖地や無道路地等、評価規定の矛盾を鋭く突くものを想定しています。