アパート建築、贈与などお馴染みの相続対策の勘どころや意外な落とし穴

相続対策における基本的な考え方

「節税」の前になすべきことが2つある

相続対策の優先順位

相続税対策に関しては、多くの人がいろいろの発言をしています。ただし相続税対策には、最重要課題としての次のような優先順位があります。この順位を誤ると、場合によってはとんでもないことになりかねません。

【1】相続人の円満 (これが最優先。揉めたら一家の絆はズタズタに)
【2】納税資金の確保(いくら税額が減っても、税が払えないのではアウト)
【3】相続税の節税 (【1】、【2】を達成の後、初めて果敢にチャレンジ)

いくら効果的な相続税対策によって納税額が減っても、遺産分割等で相続人に争いが生じたり、納税のために昔ながらの自宅を売却しなければならなくなるなど論外といえましょう。

こうした本末転倒にならないように、相続税対策を行うに当たっては、「全体への目配りが重要」という点を最初に強調しておきたいと思います。

さて不動産による相続税対策で最も一般的なものは、今も昔もアパートの建築でしょう。そこで最初に図表2-1で、その節税のしくみを示しておきます。

図表2-1: アパート建築の節税効果の例

時価6,000万(相続税評価5,000万円)の土地に4,000万円のアパートを新築。(1)から(3)へと進みます。(単位:万円)

(1)建築前 (2)アパート新築 (3)賃借人の入居
土地 5,000 5,000 980(▲18%) 入居すると賃家建付地評価)
アパート 0 1,400(35%※) 980(▲30%) 入居すると貸家権控除
借入金 0 ▲4,000 ▲4,000 自己資金で建てても同じ効果
合計 5,000 2,400 1,080 (1-3)3,920の評価減

アパート建築の節税効果は次の2種類によるものです。

(1)新築することにより、100%評価の借入金(自己資金)5,000万円が、35%※評価の建物1,400万円に代わること(※35%はあくまで目安)。

(2)土地・建物それぞれに、入居者に発生する借家権に対応する評価減を行う。本例では借家権を30%、借地権割合を60%と想定。
・土地(借家権付地の減額)・・・(1-0.3×0.6)=0.82
・建物(借家権控除)・・・1-0.3=0.70
ポイントはまず100%評価される(つまり100円のものを100円と評価する)預金や借入金が、35%程度にしか評価されない建物に変わること。次に借家人が入居することにより、建物が借家権控除としての3割引きになります。三番目に同じ理由から、その敷地が貸家建付地となることで約18%引きになることです。

しかしこの節税策には、上記【2】の納税資金の確保の観点から、大問題を抱えています。これを次の「有効利用の落とし穴」の項で説明していきます。