やり直しは利かない。全体を見据えてしっかり分割しよう

遺産分割のやり直しを税務署は認めない/税の特例に合わせた分割の工夫を/超便利な代償分割/住居用財産の譲渡の特例と代償分割

 

遺産分割に工夫を

遺産分割は、基本的には相続人の意志に委ねるべきものです。しかし外的事情から「こう分割すべき」というものも少なくありません。

まず相続税法には、配偶者に対して「配偶者の税額軽減」という手厚い税の減額規定を設けています。すなわち配偶者が相続した法定相続分まで(または1億 6,000万円)に見合う税額は免除となるのです。同じく相続税法は、被相続人の住所地であれば240m2までの土地を8割減にする等の大特例も設けています。

これらの規定は、特定の遺産分割がなされることを条件としています。したがってまずは、これらの規定を生かす分割が出発点となりましょう。

土地の関しては、地形をなるべく悪化させない範囲で単独相続とすべきです。つまり兄弟の共有は、将来的に問題を残すので是非避けなければなりません。ただし親と子といった異世代との共有や、兄弟でも売却の話がまとまっているのであれば問題はありません。

ここで代償分割という便利な手法をお話しします。代償分割とは、ある相続人が特定の遺産を相続する代償(代わり)に、その相続人が有する固有資産(通常は金銭)を、他の相続人に支払うというものです。

たとえば、子二人が相続人である場合に、母の唯一の遺産である時価1億円の指輪をすべて妹が相続します。その代わりに、兄に対して妹が自己資産である 5,000万円の金銭を支払うという指輪の分割方法です。指輪を独り占めした「代償」に、妹が金銭を払うわけです。

一見これは、指輪の半分を兄が妹に売却したようにも思えます。しかし民法はこれは売買ではなく遺産分割の一種として定めています。であれば民法を土台として定められている税法は、当然にこの規定に従います。その結果5,000万円を取得したこの兄に譲渡税が課されることありません。

この代償分割の使い勝手はすばらしいものがあり、多くの面で利用されています。たとえば遺産分割に際して、地主の跡継ぎが既に家を出ている兄弟姉妹の5人に、たとえば1,000万円ずつ金銭を渡すことで話がまとまったとします。ただし金融資産は納税等で残っていません。であれば長男の固有資産(または長男の相続財産の売却代金)等でこれを支払うことにより解決させるわけです。

いずれにしても、遺産分割は工夫しだいです。やりようによっては、節税にも便利にもトラブル防止にもなるからです。