崖地・・・持つだけ損の崖地も少なくない/建築の際の敷地後退・セットバック/私道・・・評価がゼロでも無価値ではない/周辺の人工物も影響する
崖地
多くの土地の中では、傾斜地・崖地もそう珍しい存在ではありません。多少の傾斜程度であれば、宅地としての利用は可能でしょうが、人が普通に立っていられないほどの傾斜があれば、もう利用はほとんど不可能です。
まして崖地ともいうべき急傾斜地は、利用価値は事実上皆無です。むしろ多くの場合はゼロを通りこしてマイナスとなります。とりわけ市街地にあれば、生えすぎた枝等の伐採が必要となります。まして台風等で幹が折れたり崖が崩れたりすれば、その復旧費用は相当の金額に上ります。それやこれやを考えれば、崖地等の時価はゼロというより他ありません。
セットバック
上記3の接道義務の項で、その要件のひとつに「建築基準法上の道路」があり、その幅員は原則として4m以上を要すると説明しました。しかし大雑把にいって世の中に存在する道路の約半分は、4m未満の幅員しかありません(4mあればなんとか車がすれ違えます)。
そこで建築基準法は、この接道義務の規定ができる前から既にある道路であれば、条件付きで建築基準法上の道路(これを「42条2項道路」といいます)と認めることにしました。いわば既得権です。
さてこの条件とは、建物を再建築する際にその狭い接面道路に関して、道路中心線から2mまでの位置に敷地を後退させることです。こうすれば2m未満の道路も将来的には4mの幅員を確保することができるからです。この敷地後退を一般にセットバックとよんでいます(図表4-8)。
図表4-8: 2項道路におけるセットバック
道路の右側が約40cmセットバックしているのはおわかりいただけると思います。実は左側の電柱の手前部分もセットバックです。こちらはL字溝(コンクリート製の側溝)も下げたうえでその後後退部分をしっかり舗装しています。こうすると本当に道路が広くなり、住環境も向上します。右側もそうしてくれるといいのですが。
かなり以前はこのセットバックの規定は全くのザル法でした。しかし平成に入った頃から、行政は俄然厳しくセットバックを指導しています。したがって少なくとも東京地区では、再建築の際にはその9割以上がセットバックを実施しています。
不動産取引ではこれを反映して、セットバックを要する部分の面積ははじめから除外して売買価格を決めています。敷地後退を要する部分は「始めからないと思う」という考え方です。ですからこの部分の土地の時価はゼロというべきでしょう。
私道
先に敷地の細分化を行うに際して、位置指定道路といった私道が必要になるといった説明をしました。ここではその私道そのものの評価をどう考えるかの話です。 最初に結論を申し上げます。私道はゼロ評価しなければなりません。
ただし私道に価値がないなどといっているわけではありません。私道の持ち分がなければ、私道の奥の土地は水道管等の修理が困難になりかねません。つまり私道の権利がない奥の土地は、キズ物ともいうべき存在になってしまうのです。
したがって、仮に私道奥の敷地を通常の土地として評価しているのであれば、それは私道の存在を前提にした評価です。そしてその上で別途私道の価値を評価するというのでは、私道を二重に評価してしまうことになります。ですから「私道はゼロ評価すべき」と述べたのです。
その他
まず人工物との関係を考えます。典型的なものは、高速道路や線路脇に位置することによる騒音に悩まされる土地です。また大きなビルにより日照を妨げられた土地。高圧送電線の鉄塔や送電線の近辺の土地。ゴミ焼却場や墓地等いわゆる嫌悪施設の近隣の土地。これらも数えていけばかなり多数に上ります。
また都市計画道路予定地のように行政法規により土地利用に強い規制を受けるものもあります。また土地区画整理事業が実施されれば、その後何年もの間土地の利用や処分ができなります。こうした利用制限等は、土地の値段に影響を与えないはずはありません。
以上のとおり、個別的要因には多種多様のものがあります。そしてそれらのほとんどが、土地の値段を大幅に引き下げる要因となっています。精度の高い評価を行うには、これらを的確に認識することを欠かすことはできません。